愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
あれからまた、時が流れた。俺は今、宮崎にいる。


俺のプロ野球選手としての初めてのシーズンは、終わってみれば、あっと言う間に過ぎて行った感が強い。


由夏が見てくれたあの試合の後、俺はキャッチャーとして、試合に出ることはなくなった。


「あんな言われ方して、悔しいだろう。もうキャッチャーなんかやらんでいいぞ。」


ミーティングで俺を庇ってくれた小谷ピッチングコーチから、翌日そう言われてから、俺は完全にピッチャー専任となった。


まぁ正直、キャッチャーとしては見切られたのかな、と思わなくはなかったが、もともと俺はピッチャーが好きで、キャッチャーは野球を続ける為に、仕方なくやり始めた経緯があったから、特にショックを受けることはなかった。


ピッチャー仕様の練習を半月ほど続け、9月に入ってから、数試合に登板したが、結果はあまり芳しくなかった。


二軍の試合は9月中に終了、一軍はそれよりは少し長いが、10月の初めには公式戦は全日程を終える。


リーグ優勝チーム以下、成績上位チームは、このあともポストシーズンと呼ばれる戦いが続くのだが、下位チーム、特に俺達若手選手に待っているのは、練習の日々だ。


そしてその鍛錬の場として、この10月には各球団の若手選手が一同に会して、ここ宮崎で、練習試合を戦いながら、猛練習に励むのだ。


約ひと月に渡る長丁場は、キツいものだが、それでもこの場に居られるということは幸せなことなのだ。


今月の下旬には、またあのドラフト会議がやって来る。早いもので、あれからもう1年経つ。


ところで、プロ野球では1つの球団で抱えられる選手の人数は限られている。つまり、プロ野球選手には「定員」があるのだ。


ということは、もし球団が10人の新入団選手を採れば、最低でも10人の選手がクビを切られるということになる。


そのクビ通告は10月に入ると、一斉に行われる。


「明日、球団事務所まで来てくれ。」


そう呼び出しを受けた選手は、大袈裟ではなく顔面蒼白になる。そして翌日、悄然と肩を落とし、グラウンドに姿を現した時、彼はもうプロ野球選手ではなくなっている。


昨日まで当然のように、参加していた練習の輪に入ることも出来ず、監督、コーチや仲間達に挨拶を済ますと、うつむき加減に去って行く。


そんな先輩達には掛ける言葉もない。しかし、彼らに同情している暇は俺達にはない。彼らの姿は明日の自分達の姿かもしれないのだから。


俺達に出来ることは、ただ己を高める為に練習を続ける、ただそれだけだ。
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