愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
去って行くのはそういった先輩だけではない。


一軍は成績不振の責任を取って、前田監督が退任した。契約期間を残していたから、事実上の解任だった。


「成績が残らなければ、責任は取るしかない。我々の世界は結果が全てですから。」


退任記者会見での前田さんは、さばさばした表情で、こう語った。


俺は、自分を見初めて指名してくれたこの人の何の力にもなれなかった。おこがましいとは思ったけど、連絡を入れて、自分の不甲斐なさを詫びると


『これからは、評論家として見守らせてもらう。取材に行くから、その節はよろしくな。』


と逆に励まされてしまい、恐縮するしかなかった。


監督の交代はコーチ陣の去就にも直結する。一軍のコーチの多くがチームを去り、それは二軍のコーチにも一部及んだが、小谷コーチは留任となり、ホッとした。


後任監督に就任した野崎克典(のざきかつのり)さんは、年齢は前田前監督より10歳以上年長で、過去他球団で何度も優勝を経験している。理論派で「優勝請負人」の異名もある。


「契約期間3年の間に、優勝してもおかしくないチームに育て上げる自信はある。」


就任会見で、自信たっぷりにそう言い切った新監督。人が変われば、組織も変わるのは、プロ野球チームも一般企業も同じ。


「来年はいろいろ厳しくなる。」


マスコミやチーム内での評判は一致していたが


「監督が変わろうが、なんだろうが、二軍のお前達のやることは変わらん。練習あるのみ。」


仙台から遠く離れた宮崎で、そんな喧騒から離れた所にいる俺達に、小谷コーチはそう言い切った。


「聡志、お前明後日の試合、先発だ。わかったな。」


二軍監督も交代し、現在監督代行を兼務している小谷さんから、そう告げられ、俺は気を引き締めた。
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