これは謎や暗号を解いて異世界を満喫する悪役令嬢です

……退屈な人生だった。
頭の良い父と運がやたらと良い母の下に生まれた一人娘。私。七瀬美月。
なんでもやれば人並みかそれ以上にできた。できないのは人付き合いくらいで、それもまあコツさえ掴めば、なんかどうにかなった。
受験も特に苦もなく、高望みをするタイプでもないし、頂点に立ちたいわけでもないから、なんだか外面の良さそうな、それなりの学力の高校に入り、そのまま似たような学力の大学に入った。挫折も苦労もない人生。

退屈だ。

退屈だったから、空想に励んだ。
魔法を使えたなら。
他人の声が聴こえたなら。
本を読んだ。小説を読んだ。それは、
現実よりもよっぽど面白くて。

少しの人間と部屋いっぱいの本が友達になって。
成人しても本の虫を卒業できなかった私は。
ある日、続きが気になって本を読みながら歩いていたら、踏切で電車にはねられて、
死んだ。

「ん、んんぅ……」
あつい。
なんか、どうしようもなくあつい。
これが、死の痛みというやつ?それとも地獄の炎なのかな。地獄って本当にあったんだ……ってああもう我慢できない……っ!
「あついーっ!」
がばっと目を覚まし、体を起こした。
「ユーリお嬢様ぁ!」
知らない部屋、知らない大きなベッド、知らない形の装飾、知らない外国人のおばあちゃん、その他もろもろ、見たことないものが一斉に目に飛び込んでくる。地獄って結構待遇いい。
「ユーリお嬢様、目が覚めたのですね!ああ、このアーミア、お嬢様がこのまま目を開かなければ悲しみで心臓が凍るのではないかと心配していたのですよ!」
おばあちゃんがガバッと私に抱きついてきた。外国人の顔に似合わない明瞭な日本語。……というか、アーミアって。ユーリお嬢様って。
まだ熱くてグラグラする頭に痛みが走り、おばあちゃんの声が響くのを遠くでききながら、私はまたベッドに倒れ込んだ。

……読んだことがある。異世界転生。ネットにいっぱい転がっていて、手頃な本がない時とかお金がない時とかによく読んでいるあれ。無双とかチートとか、苦手な人もいるみたいだけど、私はなんだか好きだった。なんでもできる、が退屈にならない世界。マイナスから始まって、プラスになるためのお話。
……もしかして。もしかしてだけど、いま、これ、そうなんじゃない…?
そう考えた瞬間、ユーリ…ユーフォリア・ペン・エニグランドの記憶が、頭に流れ込んできた。
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