これは謎や暗号を解いて異世界を満喫する悪役令嬢です
目が覚めてからのアーミアとシアンはそれはそれはすごい動きだった。2人ともひとしきり泣いたかと思えば、旦那様に連絡だ、医師様を呼んでこいと使用人達を動かし、私の部屋にはいつの間にかたくさんの大人が集まっていた。
「ユーリ、具合はどうだい?目の様子がおかしいとか、声の様子がおかしいとか、ないかい?」
超絶イケメンお兄さんなお父様が心配げに私の顔を覗き込む。ちょっとときめいちゃう。前世の私と年近いはずだからね。
「おとーさま、だいじょーぶですわ。ちょっとまだつらいけど、さっきアーミアのおいしいスープをのみましたから、げんきになります」
私はなるべく記憶が戻る前のユーフォリアと変わらないように話した。
「よかったわぁ。ふふ、もう少し元気になったらお着替えしましょうねぇ」
お母様がゆったりと仰る。見た目は派手できっちりしたお母様だけれど、話し方にギャップがある。
どうやら私はもう3日も寝たきりだったらしい。汗はアーミアが拭いていてくれたらしいけれど、服そのものは着替えていない。
「ああ、それと。元気になったら王城に一緒にいこうね。王様と、あとアレク殿下も心配していらしたから」
お父様が柔らかく微笑む。なんだって。王城。ああ、記憶にあった。金髪キラキラ美形の王様の顔が浮かぶ。うわぁ。
「わ、わかりましたわ、おとーさま」
「ふふ、ユーリにはまだ緊張するかな、あそこは」
お父様に頭を撫でられて曖昧に笑うと、2人は満足げに微笑んで部屋を出て行った。

多少元気になったので早速着替えることにした。
「アーミア、わたくし、おきがえしたいの」
「まあまあ、お嬢様もう動いて大丈夫なのですか?」
「はい。ゆあみをして、おきがえしたらまたやすむわ」
そう言って私はベッドを出た。うん。歩ける。えーっと…確か、お風呂はこっち…
「お嬢様っ!!湯浴みをなさるなら侍女の準備をいたしますので少々お待ちいただければ!!」
「じじょのじゅんび?」
タオルも石鹸も浴室にあるって記憶にあるのだけど。
「お嬢様の湯浴みのお手伝いをさせていただく侍女ですよ。マゼンタとレロです」
「いらない」
「お嬢様っ?!」
思わず拒否していた。お風呂に、お手伝い…いるか?私はいらない。いや3歳だからいるのかな…
「アーミア、ごめんなさい。やっぱりいる……とおもった……」
「は、はい。よかったです。こちらのお部屋でお待ちくださいね」
そう言われて、私の部屋の隣の小さな小部屋に通された。大きな姿見がある。そういえば、ユーフォリアの記憶の自分の姿は朧げだ。数式や定理はこんなにはっきりと覚えているのに…もしかして、ユーフォリアって数学馬鹿…?
少し浮かんだ疑惑を頭を振ってかき消しながら、鏡の前へと進む。
「わぁ…」
見事な美少女だ。
お母様譲りの真っ黒な髪。お父様譲りであろう癖毛で、汗のせいかくるくると巻き上がっている。瞳の色は水色に近い紫色。夕方と夜の間のような。そんな瞳を漆黒の長い睫毛が囲っている。左目の下に置かれた黒子が印象的だ。少しつり目がちで、肌も白く、いかにも成長したら深層の令嬢って感じの、美少女だった。
その成長した姿を想像して──とても安易に想像できてしまって──衝撃を覚えた。
私、この子、知ってる。

七瀬美月の記憶が浮かんでくる。
本を読んでばかりの私に、世界には面白い事がいっぱいあるよぅ、と色々な遊びに連れて行ってくれた、私の親友。三谷杏果。きょうちゃん。

彼女がやっていたゲームに出てくる、ライバルキャラ。ああ、そうだ。私にちょっと似てるって、きょうちゃんは言ったっけ。
出来る女感をバリバリに出していて、結構ファンも多いとか。だけど。
きょうちゃんの言葉が、頭の中をくるくると回る。

「このゲーム、ただでさえいっぱい人が死ぬのに、ユーリ様に限っては絶対死んじゃうんだよねぇ。むうぅ、推しなのに…」
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