叶うなら、この恋。
ポツリと寂しく置かれた1つのベンチに寝転がっている人影……黒の制服を着た少年が、静かに寝息をたてながら眠っていた。

「……ん、弱いんだよ……」

一人言の正体は彼の寝言だった。

明るい茶色の髪が静かに揺れた。

少し長い前髪で隠されている為に目は見えないが、口元は緩んでいた。

「千鶴、弱いよ……指相撲」

彼の頭の中も、春が訪れているようだ。

狭いベンチの上で、時々上手く寝返りをうっては静かに寝息をたてる、その繰り返し。

その時に引っ張られた制服の下から白い肌、少し割れた腹筋が控えめに覗いていた。

「っくし!」

ほら、もう、春が来てる。

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