猫になんてなれないけれど
「そうか?うーん、メイクかなあ・・・いや、髪かなあ・・・。全体的に、なんかつやつやしてんじゃん。もしかして、これから新しい彼氏とデートかなーとか思ってさ」

「!?」

彼氏じゃないけど。

しかも「つやつや」って、汗でテカってるだけじゃないかと思ったけれど、思わず動揺してしまう。

すると相澤先生は、「やっぱりなー」と言って楽しそうな顔で笑った。

「よかったなー。新しい彼氏できて」

「ち、違います」

「違うって。そんだけ動揺しといて違うってことはないだろー」

先生は「ははは」と笑うと、「まあ楽しんでこいよー」と言って手をヒラヒラさせながら処置室から出て行った。

私は、その後ろ姿に「違いますよ!」と再度声をかけたけど、先生は、振り返りもせずに「オーケーオーケー」と、なにがオーケーだかわからない返事をし、そのまま3階にある事務所に上がって行ってしまった。


(もう・・・。絶対勘違いしてるんだから・・・)


冨士原さんは「彼氏」じゃない。

それに、今日はお礼の食事に行くだけで、デートっていうわけじゃない。

もちろん、デート的な要素を期待していないのかと聞かれれば、そんなことはないんだけれど・・・。

やっぱり、普通にしているつもりでも、「冨士原さんに会える」って、浮かれた顔をしていたのかな。

その相手が、患者さんであり、自分の友達だってわかったら・・・先生は、どんな反応をするんだろうか。

それを想像しただけで、びっくりするほど恥ずかしかった。









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