猫になんてなれないけれど
私の背中を気遣いながら、冨士原さんは、抱きしめる腕に力を込めた。

彼の右手が、私の髪を滑ってく。

あたたかくて、優しくて、なによりとても、ほっとして。

少しだけ、涙がこぼれ落ちてしまった。

「・・・」

私はコクリと頷いて、おとなしくベッドに向かった。そして、真っ白なタオルケットの中に潜り込む。

パジャマと同じ、石鹸のにおいが鼻をかすめた。上質な肌触りのタオルケットも心地いい。

冨士原さんは部屋の灯りを少し落とすと、ベッドサイドに腰掛けて、私のことを見下ろした。

優しい目。

薄暗い灯りの中でも、彼の表情はよくわかる。

「・・・大丈夫だよ。おやすみ」

私に軽くキスをして、そして、優しく髪に触れていく。

・・・まるで、子どものような気持ちになった。

だけど不思議と、照れるとか、恥ずかしいって気持ちは全くなくて。

ただ、とても心地がよくて、幸せで、守られてるって感覚がしてほっとする。

「・・・おやすみなさい・・・」

彼の手を、まだまだ感じていたいのに。

自然とまぶたは閉じていく。

まだ、感じていたいけど・・・。

「・・・おやすみ」

もう一度、冨士原さんの声と一緒にキスの感触があったけど。

もしかしたらそれはもう、夢の中の出来事だったかもしれない。






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