猫になんてなれないけれど
リビングへと出て行くと、冨士原さんは、テーブルの上でノートパソコンを開いて作業をしていた。

後ろから、「ありがとうございました」と声をかけると、振り向いて、目を細めて私を見つめた。

「・・・やっぱり、少し大きかったですね」

パジャマのことだとすぐにわかって、照れ隠しのように私は笑う。

「はい。でも、大丈夫です。その分、スキマがあって涼しいし」

腕を横に広げて見せると、冨士原さんは笑顔になった。

その顔がとても優しくて、私はドキッとしてしまう。

「髪は、ちゃんと乾かした?」

「はい・・・だいたい」

「それなら、あとはもう早く休んだ方がいいですね。真木野さんは、こっちの部屋で」

そう言って案内されたのは、ベッドと、背の低い本棚しかない寝室だった。

ここもシンプル。色彩は、白とベージュで統一されている。

「暑かったら、エアコンは適当に調節してください。あとは・・・なにかあれば、夜中でも起こしてもらって構わないので」

「・・・はい」

「それじゃあ・・・・・・ゆっくり、休んでください」

「おやすみ」と言って、私の頭をポンポンとして、冨士原さんはそのまま部屋の出口に向かって行った。

突然、ぽつん、と残された感覚がして、私は思わず、引き留めるように彼の腕を掴んでしまった。

富士原さんは、驚いた顔で振り返る。

「・・・どうした?」

「あ、えっと・・・冨士原さんは、まだ寝ないんですか」

「・・・そうですね。もう少し、片付けたい仕事もあるし」

「・・・・・・それが終わったら、ここで寝ますか・・・?」

同じ家の中ではあるけれど。違う部屋で、一人きりになるのが怖かった。

必要最低限の家具しかない空間も、今の私には、不安材料になっている。

「・・・寂しい?」

問いかけられて、私はコクンと頷いた。疲労と不安で、今の私はかなり素直だと思う。

「じゃあ、真木野さんが寝るまでここにいるから」

そう言って、うつむく私を彼はふわりと抱きしめた。

それだけで、魔法のように一瞬で、安心感に包まれる。

なぜか涙も出そうになってきて、彼のシャツを、ぎゅっと握った。

「寝たら、他の部屋に行っちゃいますか・・・?」

「・・・行かないよ。そばにいるから。安心して眠っていいよ」
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