猫になんてなれないけれど
「・・・ところで真木野さん。お腹、空いてないですか」

「え?そう、ですね・・・・・・。言われてみれば・・・空いているかもしれません」

突然の問いかけに、一瞬キョトンとしたけれど。

朝ごはんは食べていないし、もうすぐお昼の時間だし。

・・・と、言葉に刺激されたのか、タイミング良く私のお腹も鳴ったから、冨士原さんは「ですよね」と言って笑った。

「じゃあ、適当になにか作るので。そこに座って待っててください」

「・・・え!?」

冨士原さんが作ってくれるの?

私はとても驚いた。

だって、父親以外の男の人にごはんを作ってもらうだなんて、生まれてこの方、一度もなかったことだから。

「冨士原さん、料理できるんですか」

「・・・まあ、一通りは。一人暮らしですし」


(わ、わあー・・・)


あまりにも「当たり前」という感じで答えた彼に、私は、驚きと共に感動していた。

「一通り作れる」って、なかなかさらりと言えないよ・・・。


(料理する男性が増えてる印象はあるけれど・・・身近で出会ったことはなかったし・・・)


元彼である祥悟はもちろん、その前に付き合っていた彼も、一人暮らしではあったけど、料理という料理はできないタイプの人だった。

袋ラーメンを作れるぐらいで、一人の時は、コンビニかスーパーのお惣菜がほとんどだって言ってたもんね・・・。

そんなことをぼんやり思い出している間にも、冨士原さんはキッチンに入ってテキパキと料理を始めた。

その様子から、私よりも確実に料理上手を予感する。

嬉しいような、寂しいような・・・。

彼の手際に見とれているうちに料理ができて、ダイニングテーブルの上に2人分の食事が並んだ。

真っ白なお皿にのった、絶対ふわふわのオムレツと、レタスとトマト。

「冷凍してたやつだけど」と言われて出されたバターロールも、いい感じに焼き目がついてとても美味しそうだった。

洋食屋さんのランチみたい。
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