王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
*

グランウィルに脅しを受けてから数日後、オードリーは再び書庫を訪れた。

先日の料理の味に、覚えがあった。あれはレイモンドのものではないかという期待と、そんなわけがないという諦めが交互に襲ってきて、オードリーはずっと落ち着かない。

「新しい料理人……まさかね」

この書庫にも、わずかだが料理本がある。珍しい食材をまとめた本やそれを使ってのレシピ本などだ。
入れ替わる料理人が、屋敷のお金で買ったものを置いていくようで、発行年が近いものがどさりとあり、数年明けてまたあるという感じだ。

日々、書庫を確認することくらいしかやることのないオードリーは、既にこの書庫の隅から隅まで把握している。

「あら……?」

一冊、上下さかさまに入れられている本を見つけ、オードリーは手に取った。
北方料理の本だ。モーリア国は国土が広いので、国内でもずいぶん料理法が違う。

昔、本ばかり読んでいるオードリーに、「本のなにが楽しいのさ」とレイモンドが聞いた。

『新しい知識を身に着けられるからよ。世の中には知らないことがたくさんあるのよ? 例えば、レイの好きな料理の本だって』

『料理の本……?』

『そうよ。アイビーヒルで伝わっているのとは違う料理がたくさんあるの。私が通っている学校の図書室にもたくさんあるわ。今度借りてきてあげる』

『へぇ。料理の本かぁ……』

街の学校とは違う、グラマースクールには多くの本が集まっている。それからしばらく、オードリーはレイモンドのためにいろいろな地方の料理本を借りてきた。

「……懐かしいわね」

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