王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「そうでしたか。お怒りですか? 相談もせず、罠かもしれない誘いに乗るなど」
「いや、そなたならばそうするのだろうな、と思っただけだ。だが、私も一応アイザックの父親だ。そなただけに任せるわけにはいかない。たとえ罠でも、息子の無事を知る可能性があるならかけてみたいだろう」
「ですが、陛下になにかあってはこの国が……」
「……国は私がいなくても回るだろう。すでにそのような体制になってしまっている」
御者には聞こえないよう、小声で言う。
「早く失脚したほうが、もしかしたら被害は少ないかもしれん」
カイラは無表情ともとれるナサニエルの横顔に見入った。
ロザリーも、かける言葉を見つけることができずに押し黙る。
「陛下……?」
「いや。それに、そなたとこうして出かけることなど、ほとんどなかっただろう。私はいい夫ではなかった。だから一度くらい、こうして馬車で旅を楽しんでみるのも悪くないと思ったのだ」
「楽しめる旅になればいいですけど」
カイラは苦笑して、それでも夫の気遣いに感謝した。
「陛下、もし陛下になにかがあったら、カイラ様は一生今日のことを気に病んでしまうでしょう。どうか御身を大事になさってください」
ロザリーがそう言うと、ナサニエルはちらりとカイラを見て、口もとを緩ませた。
「……そうだな。己を犠牲にして守ったつもりになっても、何もならないのだと、前もそなたが教えてくれたのだったな」
「教えたなんてそんな」
たいそうなことはしたつもりはない。
ただ、お互いに思いあっているのにすれ違っている二人を見ていられなかっただけだ。
「私は私の大切な人を守る。ロザリー嬢もだ。君はアイザックの大切な人だからな」
「はい。私も、アイザック様の大切なおふたりを守ります」
「では私も、私の大切な方と息子の大切な人を守りましょう」
まるで誓いの儀式のように、三人は互いにそう言いあった。