王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

警備隊長は立ち上がり、表で待つ衛兵に頭を下げて去っていく。
ザックがこの部屋を出られるのは、入浴と小用のときだけだ。食事は運ばれて来るが、メイドや従僕は話し相手にはなってくれない。加えて毎日繰り返される警備隊長とのやり取りで頭がおかしくなりそうだ。

それでも彼の正気を繋ぎとめてくれるのは、ロザリーの存在だ。
彼女が待っていてくれると思えばこそ、なにがあっても無実を証明し、迎えに行こうと思える。そうでなければ、とっくに生きるのさえ面倒になるところだ。

「それにしても、オードリー殿は大丈夫なのか? アンスバッハ侯爵は何を考えているんだ……?」

心配事はたくさんあるが、ロザリーのことはケネスがある程度守ってくれるだろうし、母には父がいる。だが、オードリーは身分も低いうえに侯爵に囚われている。

「その窮地だけでも、ケネスに伝えられればな……」

だがケネスとの面会は許可されていない。唯一、許される可能性があるとすれば実母だけだ。

(とにかく母上にできるだけのヒントを渡して、ケネスに伝えてもらわなければ)

どうやって無実を証明すればいいか、ザックも明確な答えをもたない。
だが今は父が自分の味方でいると分かっている。
国王が強硬に庇えば、すぐに死罪ということにはならないはずだ。

アンスバッハ侯爵がバイロンを殺したという証拠を掴むのだ。それが、ザックが解放される最も確実な方法なのだから。
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