王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

「証拠ならあります」

そこへ、集まった平民の中から、武装していない男がひとり前に出た。男にしては甲高い声だ、とその方向を見つめて、ザックは息を飲んだ。その顔に、見覚えがあったのだ。

「オードリー殿?」

「私が証言します。アンスバッハ侯爵の屋敷で、毒を作るよう強要されました。私の夫や、ウィストン伯爵に有害鉱物を採掘させたのも、侯爵です」

オードリーが帽子を脱ぎ、長い髪を下ろすと、侯爵もはっとしたように目を見開いた。
なぜオードリーが男装してこの場に混じっているのか、ザックにはさっぱり分からなかった。が、オードリーは勝算が無ければこんな証言などしないだろう。基本的に頭のいい女性なのだ。ザックは彼女を信じることにした。

「こう言ってますが? 侯爵」

「はっ、平民のたわごとなど。私を貶めるために適当なことを言っているんだろう」

「私も証言できますわ。侯爵に殺されかけたのですもの」

今度は上から声がする。ゆっくりと階段を下りてくるのはクロエだ。

「クロエ!」

ケネスが叫ぶと、クロエは勇気づけられたように微笑む。

「お兄様、お会いしたかったです。侯爵は私がコンラッド様との婚約を破棄しようとしたら、毒を飲むよう強要したのです」

「な……。何を言っているんだ。クロエ嬢。コンラッド様、なんとか言ってやってください」

侯爵は慌て、コンラッドを前に出す。が、コンラッドは膝をつく、荒い息のまま深いため息をついた。

「……クロエ嬢の言ってることはあっている。少なくとも、伯父上がクロエ嬢に毒を飲ませようとしたのは本当だ」

「コンラッド!」

まるで悲鳴のような声を上げた侯爵に、今度は右手側から、重々しい声が響き渡った。
< 194 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop