王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
意外に出し入れの少なさそうなのが、歴史書。本自体に少し埃がついている。棚は拭いても本そのものを拭く使用人は少ないのだ。
法律関係の本は頻繁に開かれているようで一部に手あかがついている。
そして彼の専門外だと思われる鉱物・植物関係の本の中でも。

「……毒に関することは、よく調べてあるようなのよね」

無意識につけてしまったであろう折り目。ページの端についている黒ずみは手あかだ。

気付いてはいけないことに踏み込んでいるような、嫌な予感があった。けれどオードリーは研究者気質なのだ。気になれば調べずにはいられない。

「鉛……」

読み跡のついているページをじっくりと眺める。
鉛は柔らかく、加工がしやすい。製錬も比較的容易だ。昔はおしろいなどにも含まれ日常的に使用されてきた。
だが、鉛による健康被害が報告されるようになると、鉛の使用は限定的となった。今では人が摂取するものには含まれていないはずだ。

ただ、鉛は自然の食品中にも含まれるものでもあり、取りすぎさえしなければ、排せつによって体外に放出される。だから、鉛そのものを生活からなくすことはできない。取りすぎると毒性を発揮することを理解し、むやみやたらに摂取しないことが大切だ。

(鉛中毒の症状はどんなだったかしら。頭痛、脱力、胃腸障害、……歩行障害もあったかな)

「なんでこんなページ……」

これが研究者の書庫なら気にしなかった。だが政治家の書庫だと思えば、穏やかではない。
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