王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

残されたオードリーはため息をつく。
そもそもオードリーはこの件に全く関わっていない。

輝安鉱を掘り出していたのは、夫のかつての友人だったウェストン伯爵だ。たしかに形式上婚約者の扱いをされていたが、実際に彼と会ったのは数日しかない。

その彼がアイザック王子の殺害を狙っていたことさえ、寝耳に水だったというのに。

(……でも、そういえばなぜウェストン伯爵はザック様を狙ったのかしら)

落ち着いて考えてみれば、第二王子が失脚したところで、彼になんのメリットがあるというのだろう。

(造幣局が疑われていたから? でも造幣局への視察は議会の承認のもと行われていることだわ。ザック様だけを殺したところで、どうにもならない)

むしろ、容疑を自分に向けることになりかねない。

「分からないわね……」

頭が混乱してきたオードリーは、入出が許可されている書庫へと向かった。
本の匂いは、彼女をほっとさせる。オードリーは元来、勉強が好きな質なのだ。

(……でも、よく考えるとこの書庫も不思議なのよね)

個人の蔵書というには、数が多い。政治家というだけあって、歴史書や法律関係の本、経済の本などがあるのはいいのだが、予想外に鉱物の本、植物の本が多い。

(しかも、出した跡がある)

これでも、オードリーは長らく学問に従事し、教授の助手や図書館の司書手伝いなどの仕事をこなしてきたのだ。
書庫を一見すれば、どれが読まれている本でどれが読まれていない本かは分かる。

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