王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

「どう思います、ケネス様。私とか」

ぐいぐいと押してみる。
どうせこのまま、なあなあと身内のような関係を続けていたら、ケネスから結婚相手の斡旋を受けるという最悪の事態がやってくるに違いない。それより前に、自分の気持ちは主張しなければ。

「クリスは可愛いよ。もちろん。だけどほら、……君、俺を幾つだと思ってるんだい」

「三十五歳でしょう。アイザック様と同い年。私とは、十七歳差ですね」

「もう犯罪だろう」

「二年前ならそうですけど。私もう十八です」

困ったように見上げられる。怯むな、とクリスは自分に言い聞かせた。
動揺は悟られる。そうしたら彼の手のひらに乗せられる。
それでは駄目なのだ。隣を歩く女性になるには。

「大人と言われる年です。ロザリンド王妃はこの年には結婚していたじゃないですか」

ダメ押しにひと言。

「最初は子供の憧れだったかもしれませんが、ここまで続いた感情はすでに恋に育っていると思うんですけど、……どう思います?」

ケネスはまじまじとクリスを見る。
そして困ったように微笑むと、お茶を一口含んだ。

「うまいね」

ゆっくりとカップをティソーサーに戻し、散々悩んだ末につぶやいたのはこうだ。

「……レイモンドに怒られそうだなぁ」

「私が説得します。それならいいですか? 私のこと、大人として見てくれますか?」

「とっくに、……子供だとは思ってないけど。いやでも、さすがに。……それじゃ君がかわいそうだ」

「かわいそうってなんなんですか。私の気持ちは私が決めます」

「……ああ、そう言い返してくる辺りはたしかに大人か」

クシャリと髪をかきあげて、ケネスはこれまで見たことのない、少年のようなはにかんだ笑みを見せる。
少しばかりの手ごたえを感じて、クリスはぐっと意気込んだ。

何年かかっても構わない。時間はたっぷりあるのだ。
この国は今、穏健派の国王と王妃のもと、これまでになく平和な時代を迎えているのだから。



【Fin.】
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