王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

「そうですか、では、職業婦人はどうですか?」

「悪くないけど、相手が嫌がるだろう。伯爵家に入れば、どうしても社交を迫られる。仕事をしながらでは難しいからね」

ケネスは楽しそうに答える。
本気で、職業婦人が自分に恋をするなど、思っていないのだ。
だが、クリスは思う。

いつまでも――あなたの思う通りにはならない。

「できますよ。私、いつも自分でお菓子をサーブしながら、ご令嬢たちとお話ししますもの」

「……は?」

ケネスが動きを止め、ぎょっとしたようにクリスを見上げてくる。
いつも悠然としている彼の、驚いた顔が見れるのは楽しい。

この十三年間、ケネスは常に、クリスを家族のように扱ってくれた。レイモンドたちが故郷に帰ってからはとくに、なにかにつけては心配し、伯爵家にも呼んでくれた。店を持ちたい、と相談したときも、まずは修業をしなさいと、菓子店を紹介してくれた。

ほのかに募った憧れは、クリスの成長とともに恋情に変わった。年の差を受け入れてもらえるかは賭けだが、こうなったからには押してみるのも悪くない。

クリスだって、散々悩んだのだ。その間にケネスが身を固めてくれれば、こんな無謀なことはしなかった。
だから、クリスは自分が悪いわけじゃないと思う。ここまで結婚しないでいたケネスが悪いのだ。
< 221 / 222 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop