王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「そうですか、では、職業婦人はどうですか?」
「悪くないけど、相手が嫌がるだろう。伯爵家に入れば、どうしても社交を迫られる。仕事をしながらでは難しいからね」
ケネスは楽しそうに答える。
本気で、職業婦人が自分に恋をするなど、思っていないのだ。
だが、クリスは思う。
いつまでも――あなたの思う通りにはならない。
「できますよ。私、いつも自分でお菓子をサーブしながら、ご令嬢たちとお話ししますもの」
「……は?」
ケネスが動きを止め、ぎょっとしたようにクリスを見上げてくる。
いつも悠然としている彼の、驚いた顔が見れるのは楽しい。
この十三年間、ケネスは常に、クリスを家族のように扱ってくれた。レイモンドたちが故郷に帰ってからはとくに、なにかにつけては心配し、伯爵家にも呼んでくれた。店を持ちたい、と相談したときも、まずは修業をしなさいと、菓子店を紹介してくれた。
ほのかに募った憧れは、クリスの成長とともに恋情に変わった。年の差を受け入れてもらえるかは賭けだが、こうなったからには押してみるのも悪くない。
クリスだって、散々悩んだのだ。その間にケネスが身を固めてくれれば、こんな無謀なことはしなかった。
だから、クリスは自分が悪いわけじゃないと思う。ここまで結婚しないでいたケネスが悪いのだ。