王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
「ところで、コンラッド様。アイザック様はご健在ですか?」
畳みかけるようにクロエが言う。その瞳は挑むようにコンラッドに迎えられている。対する彼は、眉根を寄せ、不快感をあらわにした。
「なぜ君が兄上のことを気にする?」
クロエは口もとに笑みを浮かべる。
「私とアイザック様は婚約の話も合った間柄ですもの。気にするのは当然ですわ。まあ、成就にはいたりませんでしたけど」
艶めいた表情でそう言われれば、アイザックとクロエの仲を勘繰らない人はいないだろう。ロザリーは胸がざわりとした。
「……兄上はおそらく失脚する。そうなれば私が王太子だ」
「そうですわね」
挑むように言っても、クロエは、自分には関係ないといった態度ですっと流していく。
一言一言に裏の意図があるような会話に、ロザリーは生唾を飲み込んだ。緊張でどこで息をしたらいいのか分からない。
(コンラッド様ってもしかして、クロエさんが好きなの……?)
次に発する言葉を決めかねている様子のコンラッドに、クロエはふっと笑みを返した。
「そろそろ行かないと、ロザリー。失礼しますわ、コンラッド様」
「あ、……ああ」
ロザリーも、頭をぺこりと下げて脇をすり抜ける。
「……いいんですか?」
「いいのよ。コンラッド様は、グラマースクールのときの先輩なの。話しかけてくるのはそのせい」
「そうなんですか」
クロエは綺麗だし存在感がある。我儘ともとれるが、誰にも従わない王者の気品があるのだ。
コンラッドが好意を抱いても不思議ではないと思うが、イートン伯爵の立場上、政敵ともなるアンスバッハ侯爵の支配下にあるコンラッドはとても好意的に迎えられる相手ではない。