王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました

「あのときの輝安鉱は証拠品として侯爵が持っていったはずだ。欠けていたならその時に気づくだろうに。無理やりザックを犯人としてこじつけていくんだから嫌な男だよ。警備隊は中立機関だけど、出自はアンスバッハ侯爵派の人間が多いんだよね。彼に強気に出られると、グレーくらいなら黒と言ってしまうかもしれない。とにかく、確実にザックがしていないという証拠を出さないと、なかなかに難しいかもね」

ケネスがため息をつく。

「でも、ザック様、あの日は朝から伯爵邸に来ていたんじゃないんですか?」

「そうだね。ただザックは城に住んでいるわけだから、もし本気で殺害するつもりなら、いくらでもそのタイミングはあるんだよ。バイロン様の口の中は、飴でも舐めていたかのようにべたついていたらしい。例えば輝安鉱を中央に入れた飴を渡したとすれば、当時の不在はやっていない証拠にはならない」

していない証拠を出すことは、今回の件に関しては難しいのだ。

「……どうやったらザック様が犯人じゃないって証明できるんでしょうか」

自分がそこにいれば、バイロン王太子の部屋に誰が出入りしたかくらいは匂いで判別できたのに、とロザリーは歯噛みする。まあそれをしたところで、信じてもらう手立てはないので同じだけれど。

「うーん。いずれも決定的な証拠じゃないとはいえ、ザックが犯人であれば筋が通ることが多すぎるんだよね。まず第一にバイロン王子が名前を呼んだということ、第二に、輝安鉱を入手するタイミングがあったということ。第三にいつでもバイロン王子の部屋に入れる人物だったということ。実際、ザックはその二日前にバイロン様を見舞っていたんだ。扉前にいた衛兵が見てる」

二日前なら大分前だ。そのほかにも出入りしている人間がいるはずではないか。
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