王妃様の毒見係でしたが、王太子妃になっちゃいました
だが、ナサニエルも譲る気はない。彼の目をまっすぐに見ながら、息子の説得にかかる。

「今は汚名をかぶっても命を大事にしろと言っているんだ。何が不満だ。お前はもともと、名誉欲は薄いだろうに」

「名誉はいりません。それでも、汚名をかぶるわけにはいきません」

「いつかきっと晴らしてやる。それでもダメなのか」

「ダメです」

「クロエ嬢の決意を無駄にする気か?」

「……クロエ殿が犠牲になる必要などない。婚約話は断ってあげていただきたい」

頑なな様子のアイザックに、ナサニエルは説得をあきらめた。

「少し頭を冷やして考えろ。また来る」

立ち上がって出て行った国王を見送るために、警備兵が部屋を出ていく。

「……頭を冷やせ、か」

軟禁生活はひと月になる。会う人間を制限され、毎日責め立てられる日々に、精神状態はあまりよくない。
時々差し入れてもらえる、レイモンド作と思われる菓子が、唯一の救いだ。

本当は出られるものなら出たい。早く楽になりたいと思わずにはいられない。
それでも、屈したくない理由は、いつかロザリーを妻に迎えたいからだ。

(ロザリーを罪人の妻になどさせられるか。たとえ死んだとしても、彼女を不名誉な立場に置くわけにはいかない)

無邪気な笑顔に、軽やかな動き。
ザックの脳裏に映るロザリーは、純粋で清廉だ。
沁みひとつない彼女にとって、自らが汚点となることだけは耐えられそうにない。
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