ボードウォークの恋人たち
「大丈夫だって。・・・ああ、うん、お前が・・・ああ、一番大事だって言っただろ。すぐ行くからおとなしく待ってろ」

決定的な言葉がハルの口から流れ出て私は息をのんだ。
お前が一番大事、って言ったよね。

「水音、悪い。今から大学に行ってくる。帰りは何時になるかわからないから戸締りしっかりして寝るんだぞ」

ハルは私と目も合わせず財布の入った鞄を抱え言い終わる前にリビングを出て行こうとしていた。

「ハル、部屋着だけどいいの?」
そんなハルに一応教えてあげる。

ハッとしたように自分の格好を見て「やべっ」と急いで自分の寝室に入って行った。
ハルは普段近所のコンビニに行くときですら部屋着では行かない。人目を気にするというより家と外の区別をしっかりとしたいタイプなんだとか。

ものの一分程で着替えをしてハルは飛び出して行った。
私はそれを無言で見送り、もやもやする胸を缶チューハイをあおることでアルコールのせいにしようとした。

…結果的にはできなかった。どんなに飲んでももやもやは消えず。

ばっかじゃないの、わたし。
ハルは二ノ宮病院の院長になりたいから私を利用しているだけ。私と結婚して二ノ宮家の一員になることが院長になるための最短コース。
ハルに嫌われているわけじゃないけど、気心が知れた仲というだけで愛されているわけじゃない。

愛されていると勘違いして結婚なんかしたら泣きをみるだけ。
それが証拠に今も本命からの電話で飛んで行った。私の顔も見ないで。

その夜、ハルは帰って来ず翌朝私は睡眠不足とアルコールによる頭痛に悩まされる羽目になった。


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