ボードウォークの恋人たち
掴まれた肩にハルの指がぐっと食い込んでくる。振り払おうと身体をよじるけれど、ハルの身体はびくともしない。

「痛いってば」顔をしかめるとハルはハッとしたように力を緩めた。「ごめん」と謝ってはいるけれど離してはもらえない。
当然私の顔は険しくなる。

「慰労会の三次会にはいかなかったの?あなた主役でしょ」

同じ言葉をもう一度繰り返した。
けれど私の質問に答える気はないらしく、ハルからその返事はない。

「水音。悪かった、その、女をマンションに入れたこと。謝るから、戻って来てくれないか」

「・・・ハルは私との約束を破った。でも、もともとハルのマンションなんだからハルの好きに使えばいいんじゃない」

突き放したように言うとハルは私の肩を掴んでいた手を放し、ぎゅっと歯を食いしばるように口元に力を入れ、拳を握った。

「すまない、そんなつもりじゃなかった。彼女は・・・彼女とはそんなつもりじゃなかった。頼むから俺から離れていくな」
ハルの目に暗い陰が浮かんでいる。
こんな目をする人だっただろうか。

「私もう誰にも文句言われないような住まいが見つかったの。だからハルのところには戻るつもりはないから」

ハルの傷ついたような目が気になったけれど、私も譲るつもりはない。
もうこのままハルの近くにいるのは辛すぎる。婚約だって本当にしていたわけじゃないのだから住まいが見つかった今、引越しするのは当然の行動だ。

「・・・今からどこに行くつもりだ」

「安全で気持ちが落ち着くところ。私を傷つける人がいないところ」

私はマロナーゼホテルのあの部屋を思い浮かべた。ハルのマンションの部屋の方が断然私の好みではあるけれど、ホテルのシックなデザインは落ち着くしベッドのリネンにもアメニティの香りにも慣れた。
何より、誰も訪ねて来ないから気を遣わない。

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