ボードウォークの恋人たち
「わかった。ハルが退院したらゆっくり聞く。お願い、今は休んで」

とにかく身体を休ませて欲しい。

「寝たら水音が二度と戻って来ない気がするから今聞いて。とにかく俺には水音以外の女は同じ人間ってだけで女じゃないから。諸川沙乃は俺を産んだ人の義理の娘。義妹ってことになるかもしれないけれど、家族だとは思ってない。もちろんあれも女じゃないし、研究発表が終わった今は金輪際近付きたくもない」

え、え、え。

「水音、お前だけなんだ。お前が俺の原動力で俺の希望ーーー」

「ハル、ハル、わからないけど、わかった。わかったからこれ以上は明日にしよ。どこにもいかないから、ね?」

ハルは話し続けていて止まってくれない。
本気で私がどこかに行くと思っているらしい。確かに昨日も逃げたし、マンションで沙乃さんと出会った時も逃げたし・・・そういえば見合いの日ホテルからも逃げたっけ。

え、あれ、これって私ってもしかしたら常習犯⁉

ごめん、ハル。
これじゃ心配になるよね。

「ハル」
このままだとずーっと話し続けそうなハルの頬を両手で挟んだ。

「ハル」
「み、」水音、と言いかけたハルの唇をゆっくりと塞ぐ。
自分の唇で。

唇が重なった瞬間私は目を閉じたからハルがどんな顔をしているのかわからない。
驚いて目を見開いているのかも。

リップ音を立てて唇を離し目を開けると目の前にハルの輝くような笑顔があった。

「水音、もう1回」

ばかっ。

「今日はおとなしく休むからさ、ほらもう1回」

にやにや笑うハルに知らん顔をしてやるけど、「ほら」と頭を掴まれぐいっと引き戻されてしまう。

ーーーあーあ。久しぶりに魔王サマの降臨だ。

私は再び唇を寄せた。
このまま離れなくなってもいい。2人溶け合っててしまえばいいと思いながらーーー



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