ボードウォークの恋人たち

やっと作った時間だった。
準夜勤が終わる時間に合わせて職員出口から出てくる水音を待つ。
逃げられないように話をしなくては。心ばかりが逸り落ち着かない。

出てきた水音にマンションで話をしようと頼んでみるけれど、やはりというか当然水音に拒絶されてしまいうまく話ができない。
その上、もう戻るつもりはないと言われ頭に血が上りそうだった。

このまま攫ってしまいたい、二人きりで部屋に閉じ込めてしまいたいそんな病んだ考えがよぎってしまうほど狂いそうになっていた。

「愛のない結婚などしなくていい」

水音が勘違いをしていることに気が付いた。
俺が二ノ宮総合病院の院長になりたいがために水音と結婚しようとしていると思っているのか。
違う。
違う。

二ノ宮総合病院の院長の座も二ノ宮家もそんなものはなくてもいい。

水音が、
素直で真っ直ぐで口先ではきついことを言ってもいつも俺のことを心配してくれて、
酒を飲むと目を潤ませてニコリと笑う、
膝枕をしながら一緒に寝てしまう、
一緒に食卓に着いたのは昔のことなのにいつも俺の好物を選んで料理を作ってくれる、
そんな水音が、

水音だけが欲しいのに。
俺から逃げないでくれ。



水音は隙をついてタクシーに乗り込み行ってしまった。
ハルをその場に残して。


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