ボードウォークの恋人たち
しばらくして私が岡村さんの部屋から戻るとナースステーションに残った私以外の4人はこの短時間で早々に打ち解けたらしく楽しそうに話をしている。

「ありがとう、水ちゃん。岡村さん何だった?」
浜さんが持っていたコーヒーをテーブルに置いて私に報告を促す。

「床に落としたスマホを拾おうとした拍子に足がつって、余りの痛みに慌てて足先を引っ張ろうとしたら今度は術後のキズが痛くなってしまったって慌ててナースコールを押したんだそうです」

岡村さんは傷口が開いてしまったのではないかと不安でと青い顔をしていた。

「で、大丈夫だったのね?」
「はい、創部も確認しましたけど異常はありませんでしたし、痛み止めを飲むような痛みではないそうです。このまま様子を見ても大丈夫な感じでした」

「そう。よかったわ」

浜さんも望海さんもホッとした表情をした。
こんな時間にトラブルは勘弁して欲しいし、他にもいつ何があるかわからない。それが病院というところだ。

「たいしたことなくて良かったね。じゃあ時間も時間だし僕はそろそろ医局に引き上げるよ。何かあったらいつでもコールしてくれていいから。美味しいコーヒーご馳走さま。お菓子はここに寄付していくから好きなだけ食べて」

福岡先生がそう言って立ち上がると
「俺もそろそろ帰ります」とハルも立ち上がった。

私はハルがやっと帰るのかとホッとした表情をしてしまったらしい。私の顔を見たハルが咎めるような目をして爆発を投下してきた。

「水音、帰りが夜中だからってシャワーの音とかキッチンの物音も気にしなくていいからな。俺先に帰るから水音の夜食用にリゾットでも作っとくな」

は?何言ってんの。

「え?」
「一緒に住んでるの?」
浜さんと福岡先生からふうんとかへえーとか言う声が聞こえ、望海さんはきゃあっと小さく歓声を上げている。

「いらないから。そういうこと言わないで。もう早く帰って寝て!」
もうっ!
ハルの胸をドンっと叩いて早く帰れと押し出した。

クスクスと福岡先生と浜さんが笑っている。

「気を付けて帰ってこいよ」
ハルは右手を上げて颯爽とナースステーションを出て行った。
万人受けするキラキラの笑顔で、怒り狂う私を残して。

もちろん「いつから一緒に暮らしてるの」「やっぱりそういう関係なんじゃないの」と浜さんと望海さんにしつこく突っ込まれたのは言うまでもない。


ーーーやっぱりハルとの同居は解消するべきなんだろうけど、私のアパート探しは困難を極めていた。セキュリティと家賃の問題で。

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