ボードウォークの恋人たち
「お母さんめ~」
アメリカにいるはずの母親に呪いの念を送ってやる。
きっと今頃ホテルのベッドの角に足の小指をぶつけて悶えているはず。

「ハルはまだ未熟者の私がお見合いするって聞いて相手が気の毒になって止めようとしただけだと思うよ。演技に集中しすぎてちょっと行き過ぎただけ」

「はあ?」

「相手が大江医療機器の御曹司だったから完全に政略結婚だと思ったんじゃないかな。ただ、見合いの壊し方はちょっと強引だったけど」

「何言ってんの、水音。お前達きちんと話したんじゃないの?」

「きちんとも何も。ハルはこの6年間どうしてたのかとか何で行ったのか、なぜ帰ってきたのかとか全然話してくれないもん」

私が知るわけない。兄と母は知ってるんでしょうけど。

「ろくに話してないってことか。治臣のヤツしょーがねえな」

兄は額に手を当て天を仰いだ。

大げさなため息をつきながら
「治臣が言わないんんじゃ俺も言うわけにいかないな。水音も少し待ってやれ」と言い出した。

ハルが何か言うまで今のまま待てということらしい。

「今の状況に我慢ができないほど嫌なら仕方ないけど、そうでなければ治臣の家族ごっこに付き合ってやれよ」

家族ごっこという言い方には引っ掛かりを感じるけれど、あの住まいには文句はない。

それから延々とお金が貯まるまで我慢しろだの助けてくれた治臣の気持ちも考えろとか、自分のマンションに来られても困るとか、そもそもあんな危ないアパートに住んだことが間違いだとか、散々言われて段々兄と話しているのが嫌になってきた。

ハルの家庭環境の話を持ち出されたら私もちょっと弱い。

ハルはあの頃寂しかったのかもしれない。「帰りたくないな」って呟きを何度も聞いたことがあったし、私たち家族と一緒に囲む食卓では楽しそうだった。

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