ウエディングドレスを着せてやろう
 だが、箱を返せとまでは言わない。

 なんだろうか、これ。

 芸人さんが押すな押すなと言ったら、押せの合図とかいうあれだろうか?

 いや、専務の口調、本気だったな、とぐるぐる考えていて。

 光一が今日のコンパの話をしてきても、なにも頭に入ってこなかった。

 仙子が居たら、
「あー、聞いちゃいねえ、聞いちゃいねえ。
 こいつ、人の話、聞いちゃいねえ」
と叫び出すところだった。

 なんのことだかわからないまま、光一がおやすみと言ってきたので、おやすみなさいと返す。

 そのとき、ふと、おやすみを言うためだけに来たとかいう安芸のことを思い出していた。

 電話はもう切れている。

 花鈴はベッドの下を覗いてみた。

 あの箱がある。
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