完璧御曹司の優しい結婚事情
「佐藤さん、すみません。私はこれで」

なんとか冷静を装って声を出す。
本当のことを知るのが怖い。もし樹さんがもどってきたら、私は何を言われるのだろうか。足下から、言いようのない恐怖が迫りくるようで、私はその場を逃げ出した。

「葉月ちゃん、待って」

佐藤さんの声を背中で聞きながら、必死に走った。
ホテルの前にいたタクシーに飛び乗ると、運転手さんにとにかく出してくれるように言う。一瞬困った顔をされたものの、すぐに車を発進させてくれた。

「大丈夫ですか?どちらへ向かいましょうか?」

大通りを出て少し走らせたところで、運転手さんが心配そうに声をかけてきた。鞄の中では、さっきからスマートフォンのバイブが絶え間なく響いてくる。

「すみません。ちょっと逃げ出したくて……何も考えずに飛び乗ってしまいました。えっと……とりあえず、道なりに走らせてください」

父親世代ぐらいの運転手さんだろうか?厄介ごとに巻き込まれているのに、嫌な顔をせずに頷いてくれた。


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