Sweetな彼、Bitterな彼女


「まだ完成してないんだけど、あの辺にウサギとかキツネとか、描き足そうかなって思ってる」

「もしかして……全部、蒼が描いたの?」

「そうだよ。ちなみに、この壁紙は落書きOK。だから、思いっきりお絵かきしても大丈夫」

「……子どもの頃、こんな部屋に住みたかった」


わたしがぽつりと呟けば、主寝室のドアを開けた蒼が目を輝かせる。


「じゃあ、俺たちの寝室の壁紙を変える? いまは、無地だし。猫柄にしようか?」


主寝室は、クリーム色の壁紙が温かな印象だった。
ベッドだけでなく、ソファーとローテーブル、キャビネットに大きなテレビもある。

蒼が作ってくれたくつろぎの空間だ。


「ううん、このままで十分。猫グッズは、蒼がたくさん作ってく、れ……」


部屋の中見回したわたしは、ふと見慣れたものを見つけ、言葉を失った。

肉球のクッション。
飽きる程見たDVD。
わたしの、へたくそな絵。

ハッとしてクローゼットを確かめれば、ジーンズにカットソー、ふわふわ加減を取り戻した部屋着、もう着れないスーツがあった。


「蒼、これ……捨てたはず……どうして……」


蒼は、バツが悪そうな顔をして、ゴミ置き場から拾って来たのだと白状した。


「……俺にとっては、そこにあって当たり前のもので、ないと落ち着かなくて……いらないものなんかじゃなかったから」


どうしていままで、蒼の前で感情を抑えていられたのか、わからない。

あの日から。
蒼と向き合おうと決めた日から、わたしの涙腺は緩みっぱなしだ。


「……あお……あお、いっ」


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