Sweetな彼、Bitterな彼女
「ごめん、蒼。ほら、乾杯しよう?」
「……ん」
ソムリエがシャンパンを注いでくれたグラスをそっとかち合わせる。
「この一年、すごく楽しかった。ありがとう、蒼。改めて……これからもよろしくね?」
一年前のわたしなら、素直に感謝の気持ちを口にするなんて、できなかっただろう。
いつもまっすぐに気持ちを伝える蒼と一緒にいると、いままで恥ずかしくて言えなかったことも、すんなり口をついて出る。
「俺も……この一年、すごく充実してた。紅のおかげだよ」
はにかんだ笑みを見せる蒼に、今夜はもう一つ、伝えたいことがあった。
「わたしのおかげじゃなくて、蒼の努力の成果。社長賞の受賞、おめでとう」
蒼はびっくりした様子で目を見開き、次いで嬉しそうに笑った。
「ありがとう、紅」
KOKONOEでは、年度終わりの三月半ば、全社員の投票と各部門長の推薦に基づいて、その年最も会社に貢献した社員へ『社長賞』が贈られる。
今日、蒼がダントツの投票数で受賞したことを告げるメールが、社員全員に一斉配信された。
蒼がデザインした『Chocolate』シリーズの売り上げは、第四四半期決算において、あらゆる部門でナンバーワンを獲得することが確実だ。
昨年冬に販売開始となったシリーズは、タオルやテーブルウェアにソファーやラックなどの家具まで、トータルコーディネートできる。
家具はキューブ型を基本とし、組み合わせることで好みの大きさにカスタマイズが可能だ。
テイストは、二つ。
ダークチョコレートをイメージした、シンプルでシャープな印象のBitter。
ホワイトチョコレートをイメージした、甘くてファンシーな印象のSweet。
どちらか一方、またはミックスしても不思議と違和感なく納まる。
広報部は、商品だけでなく、デザイナーである「蒼」の宣伝にも力を入れた。
インフルエンサーを使ってSNSで拡散するだけでなく、インタビューや対談、イベントへのゲスト出演など、あらゆる媒体や機会を利用して「蒼」を売り込んだのだ。
蒼は、デザインではなく自分が取り上げられることに抵抗を感じていたようだが、社命には逆らえない。新たな出会いの機会と捉え、社外の仕事や付き合いもこなしている。
「シリーズ全部買おうと思っているんだけど、けっこう売り切れていて。三か月待ちのものもあったわ」
「え? 紅、全部買ったの? 言ってくれれば試作品とか、融通したのに……」