Sweetな彼、Bitterな彼女
「いいの。正規のルートで買うのが、正しいファンだもの」
『Chocolate』シリーズを買い揃えようと思ったのは、蒼がデザインしたからではない。純粋に気に入って、欲しいと思ったからだ。
「紅は、もっと彼女の特権を濫用しようよ?」
「濫用してるけど? いつも、蒼ブランドの非売品を貰ってるんだから」
手作りのペンケースや手帳、ブックカバー。
蒼の描いた絵が、目を楽しませてくれるタンブラー。
いろんなポーズの黒猫が描かれたマグカップ。
肉球の形をしたマウスパッドに、さりげなく猫の絵が箔押しされたスマホケース。
蒼は、デザインの勉強だと言って、わたしにいろんな試作品をくれる。
どれも、わたしのイニシャルである「K.K」が、お尻あたりに描かれた黒猫のマーク入りだ。
「蒼がわたしにくれたものをオークションにかけたら、かなりの値段がするんじゃない?」
冗談のつもりだったのに、蒼は傷ついた表情をして、目を伏せた。
「売るくらいなら、捨ててよ。全部、紅のためだけに作ったんだから」
「やだ、蒼……冗談に決まってるでしょう? 売るわけないし、捨てたりなんかしない。一生、大事にする」
わたしが慌てて言い訳すれば、伏せていた目を上げ、ぼそっと呟く。
「一生大事にするのは、物じゃなく俺にしてくれない?」
「えっ」
(こ、これって……プロポーズ? いや、でも、普通は一生大事に「する」って言うんじゃないの? こ、こういう場合、なんて……なんて答えればいいのよっ!?)
人生初のプロポーズを受け、動揺を隠しきれないわたしを前に、蒼が噴き出した。
「紅、百面相してる」
「蒼っ!」
「紅に一生大事にしてもらいたいから、たくさん勉強して、いいデザインをいっぱい描いて……一日でも早く、一人前になれるよう頑張るよ」
「もう一人前じゃないの? デザインした商品はすごく売れているし。社長賞も獲ったし」
「それだけじゃ、足りないよ。もっと、いろんなデザインができるようになりたいんだ」
真剣な表情から、謙遜ではなく、本気でそう思っていることが窺えた。
蒼は、自分に足りないものを吸収することに貪欲だ。
さまざまな人と知り合うことで知識も得られるし、刺激を受けて、魅力的なデザインや企画を思いつくこともあるのだと言う。