Sweetな彼、Bitterな彼女
オフィスを後にし、駅へ向かう途中、予約していたケーキやチョコレートを受け取る。
濃厚なガトーショコラ。
蒼の好きなトリュフチョコレートの詰め合わせ。
それらとは別に、プレゼントも用意してある。
チョコレート味の歯磨き粉やチョコレートの香りがするバスグッズ。
蒼が愛用しているこちらもチョコレートの匂いがする香水。
本当は、何か形に残るものをあげたかったけれど、蒼の目にかなうものを選ぶ自信がなかった。
結局、昨年のプレゼントと同じく、「消えるもの」ばかりだ。
途中、何度か蒼に電話を架けてみたが繋がらなかったので、「少し遅れる」とだけメッセージを送った。
蒼は、デザイン画を描き出すと夢中になるあまり、着信に気づかないことがよくある。
「蒼、ごめんね? 遅くなって」
予定より三十分遅れで蒼のマンションに到着。
合鍵で玄関を開けると大量の靴が散乱していた。
男性のものと思われるスニーカーやサンダル、女性のものと思われるハイヒールに華奢なミュール。
(どう……いうこと?)
部屋の奥からは、賑やかな笑い声が聞こえて来る。
立ち尽くしていると、見覚えのある女性が現れた。
「こんばんは、紅さん。蒼、酔いざましにシャワー浴びてるところなんです」
栗色の髪を緩やかにまとめて細い首筋をあらわにし、整った笑みを浮かべているのは、カフェで蒼の隣にいた人物だった。
「わたし、インテリアコーディネーターをしているMIKAと言います。蒼とは大学の同期で、カフェのプロジェクトでも一緒に仕事をしていました。先日、『KOKONOE』にもお邪魔していたんですけど……蒼と紅さんにあてられちゃました」
「あの時は……きちんと挨拶もせず、ごめんなさい」
「いいえ。蒼は、わたしたちみたいな変わり者には、大事な紅さんを紹介したくないんですよ。今日は、サプライズで蒼の誕生祝いをしに来たんですけど、紅さんがもうすぐ来るって言うんで、ひと目会いたくて、みんなで待ってたんです。あ、荷物、持ちますね? バースデーケーキですか?」
「え、ああ、ありがとう」
戸惑いながらも差し伸べられた手にガトーショコラを引き渡そうとしたが、目測を誤ったらしく、彼女の手をすり抜けて、床へ落下した。
「やだっ! ごめんなさいっ! どうしよう、ぐちゃぐちゃになっていたら……確かめますね?」
「ガトーショコラだし、大丈夫だと思うけど……」