Sweetな彼、Bitterな彼女
シャワーを浴び、倒れるようにして寝室のベッドに転がったわたしは、深々と溜息を吐いた。
(疲れた……)
疲労感は、深夜残業の数十倍だ。
蒼の友だちなのだから、できれば友好的な関係を築いておきたいと思ったけれど……子犬の緑川くんを除き、親交を深めたいとは思えなかった。
イヤガラセをされたわけではないし、嫌みを言われたわけでもない。
ただ、年齢の差以上に、話が合わないことを実感した。
彼らが口にする画家やデザイナーの名前のほとんどを知らなかったし、辛口な批評は聞いていて気分がいいものではなかった。
たとえ、それが的を射ているものだとしても、自分へ向けられたものでなくとも、負の感情を浴び続けるのは苦痛でしかない。
蒼は、わたしと一緒にいる時、芸術について小難しいことを話したり、批評したりはしない。
わたしには理解できないと思ってのことかもしれないが、蒼は嫌いなものより、好きなものについて話すほうが、圧倒的に多かった。
「紅……ごめん」
シャワーを浴び直した蒼は、寝室へ入って来るなり謝った。
「蒼? どうしたの?」
「紅が来る前に、あいつらを追い出しておくべきだった」
ベッドに上り、わたしを後ろ抱きにして呟く。
「でも、みんな、仲がいい友だちなんでしょう?」
「仲がいいというより、腐れ縁。同じ業界とか、関連企業なんかで働いてるし」
「緑川くんとは、幼馴染だって聞いたけど?」
「うん。竜は、あいつらとは別。もう二十年ちかく一緒にいる」
「二十年。すごいわね……」
「あいつの父親が、俺の父親と仕事してるからだよ」
「お父さん同士も仲がいいんだ?」
「仲がいいとか、そういうんじゃないけど」
深々と溜息を吐いた蒼は、わたしの頭上でもう一度「ごめん」と呟いた。
「あいつら、悪気はないんだけど……相手が気を悪くするようなことも、平気で言うし。なるべく、紅を巻き込まないようにする」
「気を遣わなくても大丈夫。大人なんだし」
蒼の場合、ひと口に友だちと言っても、仕事で関わりのある相手も含まれている。
わたしのために付き合いをやめてほしいなんて言えないし、言いたくない。
しかし、蒼がそんなことを言い出したのは、自分自身のためでもあったらしい。
「気を遣うとか、そういうわけじゃなくて……紅にイヤな思いをしてほしくないのはもちろんだけど、紅をほかの男に紹介するのがイヤなだけだから」
「蒼……わたしが、ゲイジュツカにモテるとは思えないんだけど?」
「俺は、ゲイジュツカじゃないの?」
「え? そうだったの?」
「紅!」
耳を甘噛みされて、笑い声が途切れた。