Sweetな彼、Bitterな彼女
「それは、課長がわたしに容赦ないからですよ! 相手にいくら腹が立っていても、蒼の大学の同期で、友だちで、仕事の関係者なんです。雪柳課長みたいに、大人げない真似はできません」
「馬鹿か、おまえは。いまの白崎の周りにいる人間の大半は、友人なんかじゃない。あいつの名前や交友関係を目当てに近づいて来ただけの、寄生虫だ」
「そうかもしれませんけれど、寄生虫からでも、得るものはあるんじゃないですか? だから、蒼は付き合いをやめないんでしょうし」
「ああいうヤツラから得られるものは、不信感と劣等感だけだ。白崎だって、それが十分わかっているから、転職するんだろうが」
まるで、蒼の転職に事情を知っているような口ぶりだ。
「わかっているからって……どういうことですか?」
「もしかして、転職の理由も訊いてないのか?」
信じられない、という顔で見つめられ、きまりが悪くなり、目を逸らす。
「すでに決まっていることを訊いても、意味はないですし……別れる相手のことをいまさら知る必要は……」
「意味がある、なし、は聞いてから判断しろ。その様子じゃ、別れ話もまともにしてないんだろう? あいつ、俺に殴りかかりそうな顔してたぞ」
「それは……」
「俺としては、さっさと別れてくれたほうが好都合だが、おまえの気持ちを無視して、強引に迫りたいとは思っていない。ちなみに、さっきのプロポーズは、冗談じゃないからな!」
腹黒いけれど、頼れる上司。
仕事の鬼だけど、部下を大事にしてくれる。
毒舌でも、親身になって話を聞いてくれる。
尊敬できる人だ。
雪柳課長を好きになれば、きっと明確な「幸せ」が手に入る。
不安など微塵も感じることなく、心穏やかにいられるだろう。
それでも――、
わたしの心を、身体を揺さぶるのは、蒼だった。