裏切り

「佳山さん、奥菜です。
なぜ私が連絡をしたのか
おわかりになりますよね?
今日、仕事が終わり次第
私の事務所に来て下さい。」
と、千亜季の叔父である
哲也さんは言うと
電話を切った。

俺は、返事をする間もなかった。

呆然としたまま
受話器を持っている俺に、
辻が
「せっ、先輩?先輩?佳山さん?」
「えっ、えっと、なに?」
「電話終わったのですか?」
「ああ、ああ、うん。」
やっと、返事をしながら
受話器を置いた。

そのあとは、何と仕事を
こなして、
哲也さんの事務所に向かい

「てっ、てつやさん、
千亜季は、千亜季はっ
どこにいるのですか?
千亜季にあわせて下さい。
千亜季と話せばわかりあえます。
俺は、千亜季をずっと、
変わらずに
愛しています。
絶対に別れたくありません。」
と、言うと
哲也さんは、俺のワイシャツを
掴み、俺事持ち上げて
『うるせぇ、黙って座れ。』
と、椅子の上に俺を落としてから
『いいか?俺の名前を
二度と呼ぶな。』
と、耳元で囁いた。

哲也さんの目は
冷めきっていた。

少しの間、沈黙があって···
哲也さんは、ひと呼吸してから···
テーブルに書類を並べた。

その動作を見ながら
書類に目を落とすと······

離婚···届···と
書類が····三通·····

「離婚届に記入して下さい。」
「いやっ、嫌です。
てつ··奥菜さん、
俺はっ、俺は、離婚したく···ない。」
と、言うと
言葉を補うことなく
「お前のことなど
どうでもいい。書け!」
と、言われるが····

ずっと、頭を振り続け
イヤだ····イヤダ····イヤ····だ····

「書かないなら
家庭裁判所に行くだけだ。
どのみち別れることになる。

不貞をしたのは、お前なんだから。

千亜季は、何一つ悪くない。

お前は、そんな
千亜季を傷つけ
義兄の家まで汚し

その上、
何も悪くない千亜季を
何度も家庭裁判所に
足を運ばせようなんて
本当に身勝手な男だな。」
と、言った。

「あっ、あれは····」
「あんた、千亜季を愛してるって?
ふざけているのか?
本当に愛してるなら
他の女なんかに
目はいかないんだよ。
結婚して、たった五年
なにやってんだ。
お前、千亜季の両親に
挨拶にきた時、なんていった?
あれは、全て嘘·····だったんだな·····

千亜季は、夫だと思っていた男と
友人だと思っていた女から
一度に裏切られたんだ。

他の人を好きになるなら
浮気するなら、別れてからしろよ。
腐ってんだよ。
お前もあの女も。」
哲也さんからの言葉に
何も言い返すことができなかった。

それでも、頭の中では
千亜季を失わずに済む方法を
模索していた。

その間に哲也さんは、
離婚にあたっての内容を話す。

マンションを買い取りの金額の
提示····千亜季も言ってたなぁ
後···慰謝料は、必要ない··と。

それと共有財産の折半の話しで
俺は、千亜季が知らない
預金等はないと告げた。

近日中に財産の折半は連絡する
その時には、離婚届を記入して
持って来るように言われた。

最後の紙は、全てが
終わったとき
俺と夏海に
今後一切、千亜季に近づかない
と、言う取り決めの物だった。

「千亜季の方は母親に報告している
お前の父親には、お前から報告しろ。
千亜季からは、落ち着いたら
佳山のお義父さんには
連絡するそうだ。

お前の相手にも
慰謝料を請求する。
速やかに支払うように
お前からも言っとけ

ごねるなら、
出るとこに出る、
お前の方も
相手の方も職場の
上司にも相談させてもらう。」
と、告げると
ドアを開けて
「では、佳山さん
速やかに宜しくお願い致します。」
と、言葉は丁寧だが
とっとと帰れと、
言われているような仕草だった。
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