裏切り

大典side


哲也さんに会った日に
夏海の仕事場で
夏海を待っていた。

お腹の大きくなった
夏海を見て
驚きと嬉しさが会った。

職場の人達から
気をつけて帰るように
声をかけられながら
産まれたら連絡するのよ
と、言われていた。

涙を拭きながら
頷いてから
夏海は歩き始めた。

俺の横を通る時に
「夏海。」
と、声をかけると
一瞬、肩がビクッとなり
顔を俺に向けた。

その顔には表情はなく
「なんでしょうか?」
と、言った。

俺は、その冷ややかな声に
次の言葉がでて来なくて
「すみませんが、忙しいので」
と、そのまま通り過ぎようとしたから
慌てて夏海の腕を掴むと
そのまま振り払われて
「私に、触らないで。
奥菜さんに連絡しますよ。」
と、言われ
佇む俺······でも····
「夏海、悪かった。
もう一度、やり直させてほしい。」
と、頭を下げた。

夏海は、鼻で少し笑い
「お断りいたします。
二度と私の前に現れないで。」
と、言われて
そのまま離れて行った。

会えば·····
謝れば·····
話せば·······

夏海が許してくれると
思っていた?

俺に惚れて
千亜季から、奪うぐらいに
好きだったのだから·····

本当に俺は、おめでたい奴だ。

翌日、市役所に出勤すると
課長より呼ばれて
昨夜の事を忠告された。

その上、浮気をして妻を裏切り
妻の亡き父親の部屋を
住めなくしたことを
言われて
そんな人間を市民と携わる
仕事はさせられないと
今の部所から倉庫の管理に
異動が言い渡された。

哲也さんが動いたんだ。

サインをして母音まで
押した書類に反したから
夏海の話だけでは
なんの事かわからない
課長が経緯を聞き出したのだ。

俺は、千亜季にしたことを
夏海にしたこと
親父や哲也さんに言われた事を

反省するわけでもなく
自分もかわいそうな奴だと
自分自身を擁護していた。

後輩の辻からも
守ってもらったりして
本当に安易に考えていた
報いが·····これ····だ。
知られなければ····
なんの問題もない····と。

俺が部署に戻ると
辻がすぐそばにきたから
「辻、今までありがとな。」
とだけを伝えた。

辻は、なにか言いたそうだったが
口を閉じ、下を向いた
俺は、荷物を整理して倉庫に向かう

腹もたったが
だんだんと冷静になると

いったい俺は、
なにやっているんだろうと
自分が情けなかった。
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