"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
申し訳なさそうに自身の家を指差していた腕を下ろし、「すみません」と、頭を下げようとする琴音を慌てて止める。

「相沢さんが善意でやってくれたことなんでいいです!寧ろ、すっげー助かりましたから!!明日荷物が届くのに家のことは手付かずだし、思ってたより広くて絶望してたところで!!雑草まみれだったらもっとげんなりしてたと思うんで!!ほんと!ありがとうございます!!」


思えば管理人は楽しそうに物件情報紙を渡してきた。

その時にはここを一度見に来ているはずだから、雑草まみれであることも知っていたんだろう。


琴音の話を聞く限り(あと、あの管理人の楽しそうな顔を思い浮かべる限り)とてつもなく酷い状態だったに違いない。

それを殆ど雑草がない状態にしてくれた。

それなりに覚悟していた俺が拍子抜けするほどに表の雑草を綺麗さっぱり抜き取って、裏庭の作業までしてくれている。

それもたった一人だ。
一日二日の話でもないだろう。


善意でしてくれたことに俺がどうして責められるのか。


「訴えられちゃうかなって思ったから来る前にやり遂げたかったんだけど………。よかったぁ、町田君がいい人で」


胸に手を当てホッと息をつく琴音。


いや、あなたの方がいい人です。天使かよ。

俺は心の中で絶叫した。


< 10 / 259 >

この作品をシェア

pagetop