"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
「お礼したいんですけど、すいません。今、本当に何もなくて………。いずれ必ず」


こういったことは予想しておらず、お茶を出すこともできない。俺が持ってきたのは貴重品と掃除道具くらいのものだ。

せめて飲み物くらいは出したかったがまだこの辺の店も分からない。情けねぇ。


「えっ!?いい!いらない!!私が勝手にしたことだから!!」

「そういうわけにもいかないですよ」

さすがにこれだけ手入れしてもらっておいて感謝の言葉だけで済ませられるほど俺の神経は図太くはない。

あと、ちょっとした下心がないわけでも、ない。


「ん〜。じゃあ雑草もあと少しだし、全部抜いちゃってもいいかな?ここまで来たらやり切りたくて………」


ちらっと残りの雑草を振り返り、ウズウズとする琴音。
よほど雑草が気になるようなのでここはご厚意に甘えておくことにした。


「じゃあ、お願いしてもいいですか?」

「わ〜い!ありがとう!」


言うや否やすぐさま軍手をはめ、スコップ片手に作業を始め出した。


俺も手伝うため玄関の靴を取りに行こうとすると。


「あ!町田君は気にせず家の中の掃除しててね〜!」


先に言われてしまった。


「流石に悪いです!」

「でも町田君、明日には荷物が来るでしょう?結構広いよ〜。部屋の掃除、間に合うの?」

「うぐっ、」


振り返らずともわかる。後ろにある大きな和室だけで前のワンルームよりも広い。平屋全体を考えると相当な広さだ。

それを今日中にある程度は掃除し終わらなければ明日運ばれる荷物は全部埃まみれになってしまう。

腕時計に目をやると、十四時だった。
時間は限られている。


「すいません、お願いします」

「は〜い!お家の掃除がんばってね!」


元気よく手を振り、眩しい笑顔を向ける琴音に頭を下げ、掃除に取りかかった。

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