"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
高校生の時でもずっと一緒にいられたわけではないが、大学が違うと更に距離を感じてしまう。
だからこそ、一秒でも長く一緒にいられるようになんでも莉乃のことを優先してきたし、日頃から愛情表現も怠らなかった。
自分が周りからチャラいと認識されているのは知っているが線引ははっきりしていたし、存外、栄太は純情で重い。
莉乃が不安になったり心が離れないように不穏分子は徹底的につぶし、すべてを捧げてきた。
自分の尺度でしかないが、栄太ができることは全てやってきた。これ以上、どうすればよかったかなんてわからない。
思いつくなら苦労しない。
「………いや、もしかしたら俺が重すぎたのかもしれないな」
離れるのが不安でつい過剰になりすぎていたのかもしれない。それを受け止める莉乃には負担だったのかもしれない。だから一時的に逃れようとして浮気に走ってしまったのかもしれない。
「俺が必死になって繋ぎ止めようとすればするほど、莉乃には重くて、逃げたくて仕方なかったのかもな」
元々莉乃は真面目で優しい。栄太の知る彼女はそうだ。そんな彼女をおかしくさせてしまったのは自分かもしれない。
そう思うと、自分の愛の重さが怖くなって栄太は思わず顔を覆った。
覆われた暗闇の中で浮かぶ莉乃の姿。
彼女が怒ったことはない。焦ったところも見たことがない。嫌がる素振りもなかった。ただ、いつだって穏やかな笑みでそばにいた。
まるで、凪いだ海のように。
「俺が、全部、悪いのかもしれない」
最後は事切れるかのような小さな呻きになった。
莉乃のことを考えれば苦しくて、悔しくて鼻の奥が痛くなるのに、それでも、泣くことだけはなけなしのプライドが許さなかった。