"さよなら"には早すぎて、"はじめまして"には遅すぎる
どれくらい時間が経ったのか、汗が次から次へと流れていく。

たった一ヶ月もしないうちに伸び放題の雑草はしっかりと地面に根を張っていて、頑固だ。

これを全部抜いた琴音の根気強さに改めて感謝した時だった。小石が上から降ってきて、俺の前で落ちた。

顔をあげれば、塀越しに琴音がいた。

麦わら帽子で影がかかっているのに相変わらず美しさを隠せていない。


「水分補給はしてる?」


首を横に振ると、琴音はにっこりと笑って「やっぱり」と言って何かを差し出してきた。ミネラルウォーターだ。

光に反射してきらめていて見えるそれに俺は思わず喉を鳴らし、受け取った。

ペットボトルの心地良い冷たさに、現実なんだと実感する。


「随分前の話だけど、町田くんが言っていた通り熱中症になっちゃってたみたい。君も気をつけてね」

前も俺は時間を忘れて没頭して、喉の渇きに気づかなかった。その時は琴音が麦茶をくれた。

「俺、また呼ばれてたのに気づかなかったんですか?」

「うん。それで石を投げたの」


足元に転がる小石を指す指は細くて、心なしか顔も少し痩せたように思う。ただでさえ細いのに。

琴音に助けられてばかりなのに何もできなかった。申し訳なさに何も言えないでいると。

「あの時はありがとう。私はあの日、町田くんがいたから家にたどり着けたし、助かったんだよ。だからね、私も庭掃除手伝っていい?」


スコップ片手に心気充実な琴音にほっとしつつ、頷いた。


「助かります。また雑草が生えてるのが気になってたんですか?」

「そうなの!少し前から気になってたんだけど、今度は住人がいるし本当に不法侵入になっちゃうでしょ?町田くんに会える日を待ってたんだよ〜」

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