溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 「傘だ………」
 「あれ?傘のモチーフ好きじゃなかった?」
 「好きだけど、どうしてそれを………」
 「風香ちゃんの持ち物に多くあったから。ノートとかハンカチとか」
 「あぁ……そうだよね。傘好きなんだ」


 風香と柊にとって傘は大切な思い出のもの。
 それを柊が知っているのは、彼が記憶を取り戻したからだと思ってしまった。けれど、結果は違った。
 自分の事をよく見てくれているな、と嬉しく思いつつも、少しガッカリもしてしまった。
 それを隠し、笑顔で「大切にするね」と、キーケースを持ち上げた。と、中からカチャと音がし、そして少し重みがある事に気づいた。風香はキーケースを開けてみる。すると、そこには、もうすでに1つの鍵が付けられていた。
 見覚えがある形の鍵だ。


 「柊さん、これって………」
 「俺の部屋の鍵だよ。風香ちゃん………俺と一緒に暮らさない?」
 「え………それって」
 「同棲したいんだ。君と一緒に暮らしたい」


 そう言う柊の表情は真剣そのものだった。
 柊は、風香の隣に座るとニッコリと微笑んで風香の顔を見つめた。



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