溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
次に風香が目覚めた時には柊の姿はなかった。その変わりに彼が頑張って作っただろう不恰好なおにぎりがダイニングテーブルの上に置いてあった。その隣りには「無理しないで」と手書きのメッセージが置いてあった。
風香はその手紙を見て「心配性なんだから」と苦笑しながらも、大切にメッセージカードを見つめた。彼とのやり取りのカードなどは風香にとって宝物だった。大きな紙製のお菓子箱に沢山入っている。誕生日のメッセージや喧嘩した後の朝に置いてあった「ごめん」と書かれた手紙。様々ある。この手紙も風香の宝箱に入れる事になる。
柊お手製の梅干しと鮭のおにぎりを食べながら、風香は昨日の柊の様子を思い出していた。
彼は焦り、そして風香の体調を心配してくれていた。確かに帰宅して恋人が倒れていたら不安にはなるだろう。
だけれど、何故彼が風香に謝るのか。
風香はそれがどうしても気になってしまった。
風香は彼が記憶を失った理由に何か関係あるのではないか。
その時、フッとそんな風に思った。
だからこそ、風香に話せないのかもしれない。けれど、彼は記憶を失くしているならば、風香の事を知っているわけではないはずなのは、矛盾している。
だが、風香は柊は何か理由を隠しているように思えたのだ。
「やっぱり部屋を探してみるしかないかな」
美鈴に言われた時は断ったものの、彼を知りたいと言う気持ちには勝てなかった。
柊を不安にさせている物は何なのか。それを知りたいだけ。そんな風に自分の気持ちに言い訳をして風香は行動を始めた。