溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 そんな話しをしながら、美鈴の後について歩く。すると、少しずつ店が少ない繁華街から離れた場所になっていく。人の数も街の明かりも少ない場所だ。
 隠れ家的なレストランや路地裏のスナックやバーが立ち並ぶ落ち着いた雰囲気の場所だ。


 「美鈴はこんな場所も詳しいんだね」
 「まぁ、知り合いがここら辺にお店持ってくからよく来るの。なんか大人っぽい雰囲気でいいでしょ?」
 「確かに新鮮かも」
 「でしょ?この路地裏の店だよ」


 美鈴はやけに楽しそうに微笑んでいる。
 先ほどの店の酒を飲んでいたけれど、彼女は酒には強かったはずだ。訪れるバーに何か秘密でもあるのだろうか。風香は彼女の様子を見てついつい笑顔になってしまう。


 「ほら!早く行こう!」
 「うん。今行く…………ぇ……」

 
 駆け足になる美鈴の後を追いかけようと、走りだそうとした。
 その途端、突然2人の目の前に大きなフードを頭まで被った男が数人音もなく現れた。
 真っ黒なパーカーに、黒のパンツ。みんなが同じ格好。顔は見えないが、口元が皆ニヤついているのがとても不気味だった。裏路地の真っ暗闇に紛れこんでいる夜の住人のようだった。


 
 「キャアッ!!」


 突然現れた男達の姿を見て、美鈴は驚きの声を上げた。すると、突然一人の男が美鈴の手首を掴んだ。



 「美鈴っ!!」
 「やめて、離してっ!」
 

 必死に抵抗する美鈴に近づこうとした瞬間、風香は背後から出てきた腕に引き寄せられた。
 いつの間にか背後にも男達の仲間がいたのだ。風香が恐怖のあまり声を上げようとしたけれど、その声は呻き声に変わった。


 「ぅ………………」


 男の拳が風香の腹部に勢い良く入った。
 鈍い痛みを感じ、風香は苦しさから意識が飛びそうになる。
 美鈴はどうなっただろうか。動かない体。瞳だけを動かして辺りを見たけれど、朦朧とする意識と暗闇では誰の姿をも確認出来ない。

 風香はそのまま意識を手放したのだった。








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