溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
「それでは、12時にホテルのロビーで待ち合わせしませんか?」
「あ、はい………」
「連絡先交換した方がいいですか?」
「あ………私、スマホを部屋に置いてきてしまっていて………」
風香がそう言うと、男は目を大きくした後、何故か口角を上げて色っぽく笑った。その顔を見てドキリとしてしまう。
「君の名前を聞いても?」
「高緑風香です。」
「風香さん。俺は………青海柊」
「………っっ………」
彼が名乗った瞬間に、時が止まったのかと思うほどに風香は驚いて息が止まった。
婚約者である柊と同姓同名。
そんな事があるのだろうか。背格好も顔も、そして雰囲気も名前も同じ別人などいるはずもない。
やはり、目の前の彼は、帰ってくるのを待っていた柊なのだ。
「あ、そうだ…………さっきの台詞は部屋に誘われたのかと思ってしまいましたよ」
「………えっ!?」
男は去り際に、風香に近づき耳元でそう囁いた。その色っぽい台詞に風香は先ほど以上に頬が真っ赤になってしまう。
きっと、「部屋にスマホを置いてきた」という言葉が、誘われたと思われたのだろう。無意識だったとはいえ、大胆な事を言ってしまったようだ。
「そんなつもりは………」
「わかっていますよ。明日、楽しみにしています。今度こそ………おやすみなさい」
そう言って男は小さく手を振ると、自分の部屋に去っていってしまった。