溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 ドアが閉まる前にエレベーターから降りて、彼の方へ駆け出していた。男は後ろから足音が聞こえ驚いたようにこちらを見ていた。


 「あれ?どうかしました?」
 「あの………その………もしよかったらお話ししませんか?あ、でも夜中なので明日とか………お時間があれば………」


 咄嗟に声を掛けてしまったけれど、風香は自分がどうしたいのかもわからず、しどろもどろになってしまう。
 先ほど会ったばかりの人に、知り合いに似ているからと声を掛け、そして話をしたいと言っているのだ。これは限りなく怪しいし、酔っぱらいのナンパに見えるだろう。
 風香はカーッと顔が赤くなるのがわかり、思わず俯いてしまう。
 きっと怪しいんで、断れるだろうな、と彼の返事をビクビクした思いで待っていた。
 けれど、彼の言葉を予想だにしないものだった。


 「明日は昼までここに居る予定でしたので……では、ランチをご一緒していただけませんか?」
 「え…………」
 「あれ?………予定空いてないですか?」
 「いえ………まさか、こんなに怪しいお誘いを受けて貰えるとは思っていなかったので」
 「自分で誘って、怪しいなんて……君は面白い人ですね。本当に」


 クククッと笑う彼の表情。
 とても楽しそうで、そして優しい柊の笑顔。ずっと見たかったものだった。
 その笑顔に見入っていると、男は話を続けてくれる。




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