溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 「風香さん、これを………」
 「あ、和臣さん…………」


 和臣は大判のブランケットを風香の肩に掛けてくれる。風香は感謝したいけれど、なかなか声が出なく、名前を呼ぶのがやっとだった。

 けれど、風香はどうしても確かめたいことがあった。


 「美鈴…………」


 警察に連行される彼女の表情はとてもイライラしているものだった。
 風香が彼女の名前を呼んだのに気づき、美鈴は風香の方を向いて睨み付けた。


 「気安く名前を呼ばないでよ。あんたの事嫌いだって言ってるじゃない」
 「ずっと、ずっと私の事嫌いだったの?」
 「………そうよ」
 「…………」
 「1つだけ言っとくけど。私はメモリーロスは持ってなかったから。」
 「え………」
 「それと、あんたは嫌い。だけど………ミントココアは好きだったわ」
 

 うつ向きながらそう言った美鈴は、そのまま部屋から出ていってしまう。風香はその彼女の弱々しい背中をいつまでも見つめていた。


 「………ッッ…………」


 そして見えなくなった瞬間、風香の鼻奥がツンとした。すると、涙がポロポロと流れ落ちた。
 怖かった時も我慢出来た。彼女と話している時も我慢した。それなのに、美鈴の最後の言葉、そして、もう前と同じような関係に戻れない事。そして、会うことはないのかもしれないという現実から、風香は怒りよりも悲しさが勝ったのだ。


 「風香………」
 「………もう終わったよ。終わったんだ」


 柊の言葉を耳にして、風香は涙を我慢せずに流したのだった。


 



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