溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
36話「いばら姫」





   36話「いばら姫」




 柊は風香の家に到着すると、急いで合鍵を取り出して、彼女の部屋に2人で入った。
 部屋は真っ暗で、柊は電気をつけて廊下を走った。すると、奥の真っ暗な寝室のドアが空いていた。そこには、彼女がベットの上で仰向けに横になってた。


 「風香………」


 柊は彼女に近寄り、風香の顔を見つめた。
 いつもより青白い肌と唇、表情もどこか苦しそうに見えた。
 柊は彼女の頬に触れる。少し冷たくなっている。けれど、彼女の体がゆっくりと呼吸しているのを感じられ、ホッとした。


 「よかった……。風香さん、無事ですね」
 「あぁ………でも、顔色が悪いな………」
 「………確かにそうですね。呼吸も少し遅くかんじられますし………」
 「………風香………」


 柊は風香の髪を撫でる。
 いつもならば、頭を撫でれば嬉しそうに微笑みすり寄ってくる猫のような彼女だけれど、今は熟睡してしまっている。
 メモリーロスを使用後は深い眠りにつくのは知っている。頭の中の記憶を一時的に削除するのだ。体に負担がないはずもない。その負荷に耐えられずに体を壊す人も多いのだ。




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