溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を



 「青海さん、これを見てください」
 「………メモリーロスか………」


 和臣は風香の寝室のサイドテーブルに置いてあった未使用のメモリーロスを見つけたようだった。柊もそちらに目を向け、薬を見つめる。淡いピンクとパープルのカプセル。メモリーロスのカプセルと言われるものだ。


 「医療用のカプセルに似てはいるが………」
 「はい。少し大きめに見えますね」


 職業柄、メモリーロスはよく目にしている。もちろん、法外なものもだ。


 「これを押収させてもらって、成分を確認しましょう。ですが、この状態だと大丈夫だと思います。過剰摂取が多すぎると寝ていることも出来ないので」
 「そうか………」
 「病院につれていきましょう………」
 「いや………そのままにしよう」
 「え!?」


 自分でも酷い事を言っているとわかる。和臣が驚くことも。だが、柊にはそうするしかなかったのだ。


 「何言ってるんですか?過剰摂取の危険があるなら1度受診しないと」
 「この状態なら大丈夫なんだろう?」
 「ですが………!」
 「風香は自分を囮に使って欲しいと薬を飲んだ。病院に行き、そこで目を覚ましてメモリーロスを飲んだと知ったら、風香はどうなる?薬が切れるのを待って、何故薬を飲んだのか思い出す事になるんだ。そして、美鈴の事も思い出す。そうなったら、風香が危険をおかしてメモリーロスを受け取り、恐怖と戦って薬を飲んだ。そんな彼女の気持ちが全て無駄になるんだ」
 「…………柊さん」




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