溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を
4話「忘却の恋人」
4話「忘却の恋人」
「あ、風花さん。こんにちは」
「………柊……さん。こんにちは。昨日は、ご迷惑をお掛けしてしまって、すみませんでした」
風香がロビーに向かうと、すでに柊は待っていてくれた。昨日のスーツとは違い、薄手のグレーのニット、中にシャツを来ているのか爽やかなグリーンの襟と袖が見えていた。そして細身の黒ズボンにスニーカーという姿だった。今日はオフなのだろう。そして、その洋服は風香が見たことがないもので、新品のように見えた。
光に当たると灰色に見える黒髪は、いつもよりラフにスタイリングされている。そう、風香が知っているオフの日の柊そのものだった。
風香を見つけると、座っていたソファから立ち上がり出迎えてくれた。
「昨日は大分酔っていたようなので、覚えてくれてるか心配だったんですけど。また、会えてよかったです」
「お恥ずかしいです………あんな突然声を掛けてしまうなんて。酔っていたから出来ることかもしれませんが」
「俺は嬉しかったですよ。風香さんと話してみたいと思ったので」
「…………それは………」
「あんなに熱烈なお誘い始めてだったので、嬉しくて」
「………すみません」
柊は冗談でそう言ったのか、少し意地悪な笑みを浮かべていたので、風香は困った顔を浮かべた。けれど、柊に悪い印象を与えていたわけではなかったようでよかったと思った。