溺愛婚約者と秘密の約束と甘い媚薬を




 「おっと…………危ない。大丈夫ですか?」
 「え………あ、すみません!!」


 転びそうになった体を支えてくれていたのは、背の高いスーツを着た男性だった。少し色素の薄い灰色に光る黒髪。そして、つり目だけれど大きな黒々とした瞳。風香の体を支える腕は硬くゴツゴツしており、スーツ姿ではわからないが鍛えられた身体をしていた。そして、ほどよく響く低い声に、ドキリとしながらその男性を見つめてしまっていた。
 風香は慌てて彼に謝り、腕から離れて頭を下げた。


 「あの……ありがとうございます。おかげさまでパソコンが壊れなくてすみました」
 「あぁ、だから手もつかずに転びそうになっていたんですね。でも、間に合ってよかった」
 「あ、あの、私はもう濡れているので、傘は大丈夫です………」


 風香は彼が自分に傘を差し出し、スーツが雨で濡れてしまっているのに気づいたのだ。後退り、お礼を言って立ち去ろうとした。
 が、その男は風香の腕を掴んで、それを止めたのだ。その手もとても大きく、そして熱いものだった。


 「待って。これ、使って。そんなに濡れたら風邪をひきますよ」
 「え、でも………」
 「いいから。この傘はあげるから」


 そう言って、濡れている風香の手に無理矢理傘を押し付けて男は、走り去って行こうとした。
 吹雪は彼の背中を見て、思わず大きな声を出して呼び止めてしまっていた。




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